【「スーパー・チューズデー 正義を売った日」編】”大統領”に向けられた視線から読み解きたい「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」-新作に向けて”大統領映画”を鑑賞③

次作の「キャプテン・アメリカ」では大統領に就任したサディアス・ロス(ハリソン・フォード)が、重要なキャラクターとなることが既に告知されています。新キャップとなったサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)の”サム・キャップ”としての活躍にも期待したいし、アクションシーンを楽しむ映画ではありますが、せっかくなので、”大統領”が大きく関わる映画をこの機会にいくつか見てみることにしました。

ハリウッド映画における”大統領”について、

・大統領は何を目的に何を守ろうとしていたのか

・それに対し、主人公は何の為に何を守ろうとしていたのか

・作り手は大統領をどの角度から描き、どう切り取っていたか

といった視座から注目していきたいと思います。


それと、私はアメリカに住んだことも無ければアメリカ文化の専門家でも何でもないので、国家としての役割とか、実際の国民の考えや反応など、現実的な視点からの解説等は出来ません。ごめんなさい。感想です。

「スーパー・チューズデー 正義を売った日」

監督:ジョージ・クルーニー

主演:ライアン・ゴズリング

劇場公開:2012年

配給:松竹

民主党大統領予備選が控えるアメリカ。マイク・モリス知事の事務所に所属するスティーブン・マイヤーズは、モリス当選の為に持ち前の誠実さと賢さを武器に準備を進めるが、対立候補のスタッフとの密会を機に、順風満帆な日々に狂いが生じ始め…。

大統領/主人公の目的

この作品も、大統領がメインキャラクターという訳ではありませんが、大統領選挙を見据えた予備選を扱った作品であり、国を動かす政治家というのがどういった存在であるのか、というのを描いた政治劇となっています。

”大統領”的ポジションであるモリス知事(ジョージ・クルーニー)は、清廉潔白なイメージを”武器”にして新しい平和な国と外交を目指しました。マイノリティーの声を聞き、徴兵制度を変え、少数派の声が反響し始めた時代の潮流を察知したマニフェストを掲げます。『バイス』のディック・チェイニーと同じく、恐らく本当にそう考えているというか、それを信念に活動しているのはあると思いますが、モリスの清廉潔白さはあくまで”武器”である、という事だと思いました。人としてはそれがアイデンティティーになってもいいけど、政治家である以上、それは”武器”になってしまう、という。

主人公スティーブンもまた、誠実さと正攻法で攻める戦い方を売りにする、政界側の人間です。彼もまたモリスと同じような信念を持ったキャラクターとも言えるし、劇中でもそういったイメージにシンパシーを感じて彼の元で働いていました。その変化を感じさせる演技、表情、仕草が素晴らしかったです。

作り手が切り抜きたい”大統領”

この映画は正義感の強い人間が、信じていたものに裏切られ、行動原理が正義から利己的なものに変わってしまう過程を描いた作品でした。作品紹介にある"ポリティカル・サスペンス"というワードがしっくりきます。スティーブンは最初から信じ過ぎていた。人間誰しも良くない部分はあるだろうし、批判だけでなく長所を発揮させた方が良いけど、そんな簡単にいかない。保身と復讐の為に政界暗部に染まってしまうけど、その後も信念を曲げ続け、捻くれるのか。『ダークナイト』以降多くなった「何が正義で何が悪なのかを問われる」系の作品であり、一周してその手のメッセージ性が政治劇に還ってきた、という潮流も感じられました。

っていう展開や丁寧な作り込みが評価されていると思いますが、これ、そういう話か?それだけの話か?と引っ掛かる所があって、それが私には大きく、胸に何かがつっかえたまま残る作品となりました。簡単に切り捨てられた事への"復讐"と、モリー(エバン・レイチェル・ウッド)との情事に端を発する"不正"は、同じ話なんでしょうか?一緒くたに並べて言い争っているけど、同じ次元か?これ。モリーの意思や彼女への贖罪が、放置されていると感じてしまいます。いや放置したからあんな結末になったという事かもしれませんが。せめて仕事と同じ位、相手に向き合っていれば、この事件もスティーブンの葛藤も、そこまで酷くならなかったんじゃないか。やっぱり大事なのはそういう事なのではないか、と感じています。ホテルでスティーブンの解雇を知り、息が荒くなる彼女の表情が印象的です。

そういう疑問が残るのは、演技だけでなくズームの使い所やカメラの動き方、衣装やライティングなど、一つ一つ丁寧に積み重ねる様に作っているから記憶に残るのだと思います。

「軽薄に見られがちな部分を含めて自分に自信を持っていた筈が、最後は死んだ目になる」みたいなキャラクターをやる時のライアン・ゴズリングは絶品ですね。あの死んだ目が素晴らしい。そういう顔の変化を味わってほしいです。

ポール(フィリップ・シーモア・ホフマン)は"忠誠心"がこの世界の通貨だと言いますが、それを言った彼自身が切り捨てられる結果となり、”忠誠心”が揺らいだスティーブンが残ることに。結局"通貨"じゃ信用を買えないという、政界が理不尽な仕組みで成り立っている事を、忠誠を重んじるポール自身が証明してしまう結末となりました。そして正義が揺らいだスティーブンも。でも、「なぜ忠誠心が大切か」の話は良かったな~~~。

技術と美術

この作品が目指すところは、余計な脂を取ってテンポ良く一部始終を見せる事だと思うので、キュッとまとめることに成功した良作だと思います。100分という上映時間もこの作品の方向性を表しているんだと感じました。

演説や討論において、武力や争いについての考えをどう説明するかがネックというのは、今のアメリカひいては世界の情勢と同じですね。

前半、スティーブンが「大義のためなら何でもやる」と言うシーンがありますが、それを言った直後に飛行機が揺れるのは、この先の彼を暗示する様で良い演出でした。映像的文法というのか、予感を表しています。

マリサ・トメイの演技も良くてスパイダーマン・シリーズを見返したくなりました。

”権力者が小さいレストランバーを閉店させ、人を払い、厨房だけ灯りをつけて密会する”っていうシーンよく見るけど、ありがちなのかな(笑)そういう事ホントに出来んのかな。

映画.comのクルーニー監督インタビューによると、揺れるカメラで撮りたくなかった、こういう映画はドキュメンタリーのような感覚を醸し出すけど、映画的感覚がほしかった、とのこと。『大統領の〜』『バイス』に比べてドラマ的な造りで映画らしさを感じたのは、当然意識的でした。

最後に、構成について。一幕目は29分、モリーとホテルで会うまで。二幕目①は49分頃、知事とモリーの関係発覚まで。そして1時間8分から三幕目、解雇されプルマン事務所に行くところから。という感じだと思います。

内部リンク

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