病室のベッドの横でプレッシャーを吐露する、なんて場面を書き残してボールを投げてくるからこれは映画-”大統領”に向けられた視線から読み解きたい「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」

2025年3月14日

「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」

「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」の日本版ポスター。丸い盾を掲げる主人公が、赤くて巨大な腕から繰り出されるパンチを防いでいる。
「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」

監督:ジュリアス・オナー

出演:アンソニー・マッキー、ハリソン・フォード、ダニー・ラミレス、シラ・ハース、平岳大ほか

劇場公開:2025年

配給:ディズニー

『アベンジャーズ』シリーズで知られるキャプテン・アメリカの相棒だった、”ファルコン”ことサム・ウィルソンが”正義の象徴”を受け継ぎ、”新キャプテン・アメリカ”として活躍するマーベル・スタジオ制作の新作映画。主人公が代替わりした実質の1作目なので、一応はシリーズ未見でも入りやすい作品。”アベンジャーズ”再結成の一歩を踏み出した作品でもあるので、今後公開予定の『アベンジャーズ』新作の流れに乗るための”始発駅”としても入りやすい、かもしれない。

同じマーベル・スタジオの映画『エターナルズ』の影響でインド洋に巨大な物体が出現。突如として現れたそれには未知の物質が確認され、周辺各国による採掘の権利争いが起こっていた。怪物の”ハルク”や”アボミネーション”誕生に関わり、アベンジャーズ分裂のきっかけを作った人物でもあるサディアス・”サンダーボルト”・ロス将軍が、アメリカ新大統領に就任し、未知の物質に対する条約締結に向け、日本をはじめとした各国との国際会議を開く。戦争を回避する平和的解決となる筈だったが、会議の場で大統領襲撃というテロが発生し、不信感を募らせる日本とは一触即発の状態となってしまう。襲撃に居合わせた新たな”キャップ”ことサムは、テロと国際危機の二つの事件を解決しようと奔走するが・・・。

『インクレディブル・ハルク』『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』等の過去シリーズに登場したサディアス・ロス役を、2022年に他界したウィリアム・ハートに代わってハリソン・フォードが演じた。

説明に固有名詞使い過ぎて面倒くせぇ。

でもあらすじとか記事前半は作品を知らない人にも伝わるように書きたいんです。

楽しんで見る気満々な上に”大統領映画”予習も

今作では、大統領に就任したサディアス・ロス(ハリソン・フォード)が重要なキャラクターとなることが事前に告知されていました。新キャップとなったサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)の”サム・キャップ”としての活躍にも期待ですが、せっかくなので、この機会に”大統領”が大きく関わる映画をいくつか見てみました。

ハリウッド映画における”大統領”について、

・大統領は何を目的に何を守ろうとしていたのか

・それに対し、主人公は何の為に何を守ろうとしていたのか

・作り手は大統領をどの角度から描き、どう切り取っていたか

といった視座から注目して、8作品を鑑賞。記事の最後に内部リンクがあるので、数ある”大統領映画”の一部ですが、大統領がどう描かれていたのか知りたい時はそちらからご確認ください。


それと、私はアメリカに住んだことも無ければアメリカ文化の専門家でも何でもないので、国家としての役割とか、実際の国民の考えや反応など、現実的な視点からの解説等は出来ません。ごめんなさい。感想です。


その予習的鑑賞とは別に、そもそもファルコン=サムというキャラクターが好きだし、彼とウィンター・ソルジャーをフィーチャーしたドラマも面白かったので、”事前に準備したんだし”という気持ちとは別に、”楽しんで見よう”という心意気を始めから持って鑑賞に臨みました。そんな姿勢で居たので、もちろん楽しかったです。『アイアンマン』一作目の様であり『トップガン マーヴェリック』の流れも感じる空中戦は充分に爽快な出来だと感じました。予算等の都合か、明るい場面での空中戦は後半に集中し、他はサムの軍隊経験やスーツ特性を活かした白兵戦が殆どです。それはむしろ『キャプテン・アメリカ』シリーズらしいリアル寄りのアクションだったので、アイアンマンとキャプテンのアクションを一作で楽しめる様な造りだと思いました。

「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」

ストーリー面では後述するような”拍子抜け感”はありますが、ハリソン・フォードがレッド・ハルクとなり主人公の前に立ちはだかる、というCMで何度も見たシーンが意外なタイミングで見せられたのは、予想外だったので好意的に受け止めています。作品の中心にあるテーマと同じく、その意外性に感心したので良いと思いました。

アメコミ映画としての”決め画”の格好良さ、だけでは抑えきれない甘さ

楽しみながら見たと言っても「あれ?」と思う場面はあったし、思い返すと変だな、と見終わった後にも気づくこともありました。

まずストーリー面では、襲撃事件の黒幕の正体と手段が筒抜けで、主人公が正体に気づいても、ロス大統領が黒幕の真意を聞かされても、鑑賞者にとっては「全部知ってた」と言いたくなるような単純な展開。『インクレディブル・ハルク』に出演した俳優がキャスティングされたと事前に報道され、そのキャラクターは劇中で伏線が張られていたし、原作コミックでは敵役として登場していました。そんな人物が再登場となると、悪役とは正式にアナウンスされていませんでしたが、そいつが黒幕である事はバレバレです。シリーズ過去作を見ていなくても「あぁここに居る人が何か糸を引いているんだな」というのが早々に分かる演出でした。公式サイトの相関図も低学年向け雑誌の様な分かりやすさ。

黒幕がバレバレなのは過去作に限らずMCU以外のどんな作品でもよくある事ですが、今作の引き合いに出される『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』にしても、ニック・フューリーの意外な展開やウィンター・ソルジャーの正体に気づいた時のスティーブの心境、敵組織であるヒドラの戦略担当の衝撃など、脇を固める要素を用意して、バレバレでも惹きつける求心力を持たせるのが恒例だと思います。今作ではそれがハリソン・フォードがレッド・ハルクになる事やブラッドリーが実行犯となった理由だと思いますが、レッド・ハルクに関してはCMや宣伝で刷り込まれているから、少なくとも変身自体はサプライズでは無いですし、ブラッドリーも黒幕が洗脳したというのがすぐに示唆されるので、”サスペンスとして”話を引っ張るものがありません

その洗脳というのもフラッシュや特定の音を聞かせて催眠状態にさせるというものでしたが、催眠のトリガーとなるものが単純で、暗示にかかった人達があっさり引っ掛かる短絡な人にも見えました。なら催眠までの工程が特殊だったり複雑で、時間をかけて潜在意識に刷り込ませるとかそういったものかと思えば違うらしく、黒幕の「人間の脳というのは思っているより操られやすい」みたいなセリフだけで、特に理屈っぽい理屈すらありません。ヒドラの洗脳とは違う割に、マーベル映画じゃ洗脳はよくあるでしょ?とでもいうかのような説明の少なさ。フィクションにおける洗脳ってタイムトラベルものと同じで、どういう理屈なのかというのもSFとしての魅力の一つだと思うのですが、今回はそういうのはあっさりしてました。

ただ今作は、黒幕の正体や洗脳のトリックとかそういう面はほどほどにして、”黒人が汚名を着させられ収監される絶望感”、ロス大統領の”大人の意地や後悔”など、それに注力することを目指した作品という事なのかもしれません。目指すところと観客が求めるものの違いかもですね。

あとは黒幕の正体である”リーダー”ことサミュエル・スターンズの強さも拍子抜けでした。ハルクの血を浴びたのをきっかけに頭脳が肥大化し、コンピュータ並みの計算力を手に入れたという事でしたが、これもやはり筒抜けの暗躍のせいで、主人公と同じタイミングで観客も驚くような意外性が無かったです。ライト点けただけで操られるような人ばかり(に見える)なので、更に矮小化してるようにも感じました。

でも『グランド・イリュージョン』シリーズで人間はあっさり暗示にかかっていたしな・・・あのシリーズ好きだしな・・・。ライト点けただけで操られるってのも、確かにちょっと怖かったもんね・・・。

ちなみにこの手の映画で重要なアクションシーンについては、空中戦は少なくともMCU作品の中では新鮮な見せ方だったと思うので、目新しさが無いとは感じませんでした。生身の戦闘や地上でのアクションも、主人公のサムは初代キャプテンやウィンター・ソルジャーの様な”超人血清”を打っていない、つまり超能力を持たないあくまで”普通の人間”というキャラクターなので、過去シリーズの様な超人アクションを期待するのも少し違う気がします。だから今回の見せ方で満足したし、ウィングスーツを着てるのだから、空中戦さえちゃんとしていれば良いなと思っていました。でもまぁ訓練したとはいえ、特殊スーツ着ただけで空飛んだり盾をブン投げたり出来る時点で普通じゃないので、フィクションの中での”普通の人間”という感じです。

『キャプテン・アメリカ』を冠する以上は作品に対する期待も大きくなってしまうので、その分、より大きく”拍子抜け”してしまった人も多いのかもしれませんね。劇中のサム同様、やっぱり”正義の象徴”は重い。

悪いヤツはしっかりブチ込むけど、耳を傾ける人には手を差し伸べるヒーロー。やり直せると言ってくれる人が居ることのありがたみ。不安を話してくれるからこその頼もしさ。

それでもこの映画が好きなのは、どれだけ歳を重ねてしまった後でも誠意を見せる事は出来る、という描き方をしてくれて、主人公が対話によってそれを伝え、気づかせ、事態を治めたからです。そしてその主人公が、戦う事や責任に対してちゃんと「怖い」と話しているからです。

キャプテン・アメリカ=サム・ウィルソン

まずレッド・ハルクの登場シーンですが、CMでもガッツリ出てくるから二幕目には出てくるのかな、とぼんやり考えていたので、「よっ!待ってました!」みたいなタイミングだったのは驚きました。『アイアンマン3』ではCMで見せ過ぎていたのが残念でしたが、今回は見せていたからこそ驚くタイミングで、良い裏切りだと思います。タイミングがタイミングなので、見せ場が少ないと思う方もいるとは思いますが。

鑑賞後にX(旧ツイッター)で”三角締め”ことカミヤマ△さんの投稿を読んだのですが、父娘ものとして他人事とは思えないぐらい感動した、といった旨の感想を書いており、確かに親子の関係性にも共感できるポテンシャルは持っていたなと気づきました。それもあったし、どれだけ嫌われても失敗しても、もう引き返せないと思う様な立場になってもまだやり直せる”先”がある、まだ誠意を見せられる人が居る、だからどれだけ遅くとも償うことは出来ると提示してくれたのが良かったんです。近年のヒーローものの潮流でもあるのかもしれませんが、『僕のヒーローアカデミア』の”手を差し伸べる”姿勢とも通じる行為を、サム・キャップがやってくれたのが良かった。

「MCUのフェーズ4は、価値観の変化と共に単なる勧善懲悪が描きづらくなった現代において、悪役をどう倒すかというのを模索し、新たな解決法を提示していくものだった」、というような事をRHYMESTERの宇多丸さんがラジオ(アフター6ジャンクション)にてよく話されていました。今作もその流れにあるし、ディズニー傘下の作品だからというのもありますが、超能力を持たないサムだからこそ対話による解決に懸けた気概にこそヒーローたる本質を感じます。偶然ですが鑑賞の数日後、そのラジオ番組のアトロクのアーカイブ『特集:「これでお前らとも、縁ができたな!みんなでドンブラを語りつくそう!!」』のエピソードを聞いていたら、今作とも通じる話がありました。臨床心理士のリスナーからのメールで、敵を倒すのは”正常と異常を分け、病気の原因を取り除くという発想は医療型ヒーロー”で、『ドンブラザーズ』(日曜朝の戦隊モノ)は”怪人=心の問題を抱えた人がその問題を抱えたまま生活することを助ける発想は福祉型ヒーロー”であるのが良かった。それは男児向けには珍しく、プリキュアはその傾向にある。そして支援者・被支援者の境界は曖昧とも書かれた投稿でした。今回のキャプテンもそれであり、最早現代では正しいヒーロー像を描く上で外せない要素なのかもと感じています。

ただこれは今回の敵ではなくあくまで味方側の暴走を止める展開なので、悪役に”手を差し伸べ”てはいないのがちょっとズルいというか、巧妙だなと思いました。いずれにせよ、鑑賞者が求めるものとの乖離が大きくなっているのも感じますが・・・。

そんな対話型のサムが、最後にヒーローである責任や”キャプテンの重責”を、”象徴”に憧れる相棒のトレスに曝け出します。暴力と共に民衆を指揮していく立場のプレッシャーを吐露したのが、やっぱり応援したくなります。親近感があるし、弱音を吐いてくれるからこそ頼り甲斐も大きくなる。悲しみを知っているから喜びも知れるみたいな、相対的な感覚であるのかもしれませんね。

大統領/主人公の目的

大統領としても一人の人間としても、成し遂げられる人物であることを見せつけたい願望は共通しています。だからこそ影の部分、弱さが相対的に浮かび上がってくる構図でした。弱さを見せる大統領。見栄を張るというのもアメリカらしくもあり、それを自覚してフィクションに落とし込む所も込みでハリウッド映画らしかったです。

主人公は平和や問題解決が目的ですが、弱さの吐露は今後の呪いにも成り得る雰囲気もありました。

作り手が切り抜きたい”大統領”

分かってはいましたが、”大統領”としてではなくサディアス・ロスのキャラクターを描いた面が多かったですよね。日本との交渉もほぼ一対一の会合といった感じでした。でも別に全く無かった訳ではなく、・・・と思いましたが大統領が直々に最前線の戦艦に乗り込むのは、やっぱり大統領というよりロスのキャラクター性が強いかもしれません。でも、”大統領”という立場でもやり直せる、つまりアメリカという国自体も誠意を見せる事が出来る筈で、現実のアメリカにはそれを見せてほしい、という作り手の願いも込められている。というのは飛躍し過ぎですねきっと・・・。

あと国際会議の部屋。架空の場所だろうけどホワイトハウスの新しい部屋を見れたのは、大統領映画を沢山見てきたからこそ気になったところでした。後半はホワイトハウスが大変なことになるのも・・・(笑)

そしてハリソン・フォードなので、やっぱりエアフォース・ワンが出てきたし、ちゃんと乗ってましたね!(笑)

技術と美術

楽しんで見たとはいえ、タイミングもあるのか、マーベル・シネマティック・ユニバース作品の中では一番好きな映画になったかも。

そういえば、「桜の花びらが舞い降りて手のひらでそっと拾う」、なんて古典的な演出を、まさかハリウッドの超大作で見られるとは思いませんでした(笑)。

関係無いけどサム役のアンソニー・マッキーの上裸を映すのは、監督分かってる!と思いました。ウィル・スミスとかライアン・ゴズリングとか、何故か毎回上半身裸を見たい俳優さん居ますけど、彼もその枠だと思います!

思うところがあったので吹き替えで鑑賞したのですが、驚きました。主演の吹き替えを担当した溝端淳平さん、めっっっっっっっちゃ良かったです。上手かった。ひいき目に見ている方だとは自覚してますが、それにしたって吹き替えで上映する意義のあるクオリティーに仕上がっていたと感じました。

ブラッドリーとトレスの、スマホ不慣れなおじいちゃんと余計なお世話っぽい若者の構図は微笑ましく、男性からちょっかい出されて困っている友人を助ける為に女性が「エアドロしよ~」と言って助ける、って話を思い出しました。

「たかが大統領の言ったこと」

監督の演出として、シンメトリカルな構図のショットが多かったのですが、『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』を見て以降、顔をどちら側から撮るのか気になって来たので、次回はそれも含めて構図に注意して見たいと思います。

中盤は戦艦の指令室でのシーンが多く戦闘機も出てきたりで、軍隊もの、空軍ものみたいな雰囲気もあるのが面白いなと思いました。ヒーローものであり、父親ものであり、黒人の不当な収監ものであるのは予想されるものでしたが、それも『トップガン マーヴェリック』の影響でしょうか。

最後に、三幕構成の推測。上映時間20分でホワイトハウスでの国際会議。40分で大統領襲撃。45分で各国とリモート会議。1時間、スターンズが正体を現す。1時間25分、インド洋の戦闘終了。1時間半、ホワイトハウスでロスが娘に電話をかけるも不在。窓越しに映る? 1時間37分。ホワイトハウスが大変なことに。1時間50分で本編終了。

内部リンク-大統領映画ほか

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