ショート感想「あんのこと」
皆さん、こんにちは。アヤノテツヒロです。短めでもブログ更新をしていこうということで、ザックリ感想でもブログにしてみます。今回は 「あんのこと」です。
監督:入江悠
キャスト:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎
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「あんのこと」感想:のしかかるツラさ
最悪の母親と暮らし、小学校も中退、薬物に染まり、売春に生きる杏が多々羅という刑事との出会いをきっかけに徐々に立ち直っていくのだが…という話で、実話がベースになっているというのが恐ろしい。
冒頭の明け方の街をフラフラと歩く杏と静かすぎる街並み、彼女の心を表すようにグラグラ揺れるカメラと彼女の虚ろな表情に一気に引き込まれた。
佐藤二朗さん演じる多々羅という刑事、いきなりヨガをやったりするし、路上タバコにポイ捨てにツバ吐いたりとやりたい放題なのだが、杏に親身になって行動してくれる様が昔ながらの刑事っぽいのだが…
稲垣吾郎さん演じる桐野、当初は目的がいまいち分からないが、施設に出入りし、多々羅とも顔見知りであることや何か多々羅について追っていることが示され、彼の目的は次第に明らかになっていく。
杏は多々羅と出会い、彼が就職について面倒を見てくれたり、更生施設での出会いや支援学校的なもの?での交流を通して少しずつ希望を取り戻していく。
当初は彼女はひたすらに自分を殺していた。どんな理不尽な目にあっても、多々羅に色々してもらっていても、言葉をほぼ出せずに、感情もほぼ発露せずに佇んでいた。そう生きるしか無かったからだ。そんな彼女が少しずつ笑顔を見せたり、介護施設でおじいちゃんに話しかける姿を見ていると暖かくなると共にこのあとに続くツラい展開がより苦しくなる。
河合優実さん演じる杏の移りゆく変化がスゴく繊細で素晴らしい。
多々羅が役所の窓口にキレたり、積み重ねを大事にしてほしいと語っていたこと、杏が家から逃げ出した時に自分は転ぶくらいに受け止めたこと、夜中に薬物に再び手を染めてしまった杏を優しく諭す姿は決して偽りでは無かったのであろうが、彼の裏の顔は刑事としての立場を利用し、薬物更生施設に出入りしつつ、そこにいた女性への性的強要をしていたという事実。そして彼は逮捕される。最低である。
この事を記事にした桐野。元々密告があって多々羅に近づき、杏のことも気にかけていたように見えるが、多々羅が逮捕されてからはほとんど杏に絡んでこない。杏からしてみれば多々羅を逮捕に導いた男であるし、桐野自身も負い目があったのだろうが、彼がもう少し気にかけていれば…と思うと彼もまた最低と言ってしまう。
もちろん、杏の母親は最悪中の最悪であり、マジで刺してしまえと思うくらいに嫌悪感がスゴかった。
そこに我々も経験したコロナ禍が襲い来る。こちら側の影響なんて些細なものだと思わせるほどに、杏にとって地獄が始まる。
非正規雇用は休みになり、学校も、更生施設も全ては封鎖になり、多々羅たちと行ったラーメン屋さんも閉まってしまう。自分たちも味わった色んなものが規制されたことが彼女に取っては希望の全てを奪い取られてしまったのだ。さらに、突然自分の子供を押し付けて消える、これまた最低な母親が現れ、杏は見知らぬ子供を育てることになる。子供、ハヤトを世話するうちに、彼女はハヤトに希望を見る。だが、そこに母親が再び現れ…そして最悪すぎる展開へと向かっていく。あの母親だけはもう許せない。
ハヤトを人質にされ、売春をしてきて憔悴して帰ってきたらハヤトは児童相談所に勝手に渡され、彼女は突然ハヤトがいなくなったこと、彼を守ることが出来なかったことということで自分を責め、また薬物に手を染めて、さらに自分を責める。日記を燃やしたり、グチャグチャにするのはもう耐えきれなくなってしまったんだね…
彼女が最後に選んでしまった最悪の結果、静かに涙しました。そして、彼女のような人がきっと近くにもいたのだろう(何せ実話が元なわけですし)と思うのと同時に果たして自分が近くいたとして何かが出来ただろうかとも思う。
ツラくて一度しか見れてないので合っているのか分かりませんが、杏が平穏な日々を送れている時は比較的照明が暗め、もしくは屋内の照明に対して、杏が過酷な状況だったり追い込まれる姿はどこか青空だったりと美しい景色が多かったような気がしました。これもまた美しくも残酷な世界を表しているようにも思いました。
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