三幕構成をはじめとした基礎的なことから面白さを見つける方法と、作品をどう捉えたらいいのか、どう伝えればいいのかというプレッシャーを軽減できるかもしれない方法
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はじめに
『嫌いな映画は?』と聞かれてもパッと出てきませんが、面白くないと思った映画はあります。でも半年から一年ほど前、スクリプトドクターで映画監督、脚本家でもある三宅隆太さん(※1)がやられているポッドキャスト番組「スクリプトドクターのサクゲキRADIO」「~サクゲキRADIO2」を聞いて、かつて面白くないと思った作品を見直してみたんですね。
で、番組でも触れられていた作品を、三宅監督が語っていた様な観点から見直してみると、自分が何に対して、どこを指して詰まらないと感じていたのか、ぼんやりと捉えていたものがハッキリと認識できるようになりました。むしろ今では面白いと思っています。三幕構成についてと、鑑賞者から求められているものと作り手が目指しているもの。あと今回詳しく紹介していませんが構成と構造も。主にこの4つの視座を得ることで、映画の楽しみ方を広げることが出来ました。
現時点での自分なりに解釈したものを、自分なりに説明しているので、三宅監督が言ってたものと違う、というか間違って記載してしまっている所もあるかもしれません。もっと調べていこうと思いますが、ひとまずここに書いておきます。影響受けて名前を出しまくっておきながら、間違ってたらすみません、、、。
この記事内での「※」は注釈ですが、本文に入れてないけど書きたいことを別に記載しているだけなので、読み飛ばしてもいいやつです。
(※2)
プレッシャーを下ろすもの
▽三幕構成
物語を作り、構成するための基本理論。ハリウッド映画で使用されていることで有名。一幕目、二幕目、三幕目に分けられる。起承転結や序破急と同じような、物語の原則。”起”=一幕目、”承・転”=二幕目、”結”=三幕目といった感じで、上映時間を三分割して区切りを意識して見るだけでも、物語の輪郭をグッと掴みやすくなります。
▽鑑賞者から求められているものと作り手が目指しているもの
文字通りという感じで、その”鑑賞者と作り手の認識の違い”を意識すると、好き嫌いは別としてもその作品がやろうとしている事を理解することが出来る筈です。”作り手が目指しているもの”は三宅監督の言うところの”企画の眼差し”みたいなところです。
▽構成
1、いくつかの要素を一つのまとまりのあるものに組み立てること。また、組み立てたもの。「国会は衆議院と参議院とで—されている」「家族—」
2、文芸・音楽・造形芸術などで、表現上の諸要素を独自の手法で組み立てて作品にすること。「番組を—する」
デジタル大辞泉(小学館)
言葉の意味としては上記の通りで、ここでは物語の道筋、形作る順序だて、といった意味で使っています。
▽構造
1、一つのものを作り上げている部分部分の材料の組み合わせ方。また、そのようにして組み合わせてできたもの。仕組み。「家の—」「体の—」「文章の—」「—上の欠陥」
2、物事を成り立たせている各要素の機能的な関連。また、そのようにして成り立っているものの全体。「汚職の—が明らかになる」「経済の二重—」「社会—」「精神—」
デジタル大辞泉(小学館)
物事を作る仕組み。設計図とか全体図みたいなものですね。ここでは構成より俯瞰したような、作品の基本を形作る骨組みといった感じで使っています。その作品たらしめる独自の要素で作られた骨組み。
構成と構造については、三宅監督のポッドキャストのこの回→♯11のエピソードで詳しく解説されているので、そちらを聞いて頂ければ、しっかり頭に入ると思います。私の説明より丁寧でわかりやすく、詳しいです。
構造っていうのは企画の眼差しです、簡単に言うと。企画の眼差しの部分が構造を呼び込むので、その呼び込まれた構造がさらに構成を呼び込む。その呼び込まれた構成が登場人物のセリフを呼び込むっていう風に、映画は玉突きを起こしていくんですよ、必ずね。映画っていうかシナリオというものは。
スクリプトドクターのサクゲキRADIO-♯11より
「スーサイド・スクワッド」(2016)
まず「スーサイド・スクワッド」(2016)。一応最初の映画版で、通称エアー版。これは過去に何度も詰まらないと、友人知人に話してきた作品でした。これがまた不思議な作品で、見る度に面白さが理解できる、何回見ても楽しめるもので、段々評価が上がっていきました。
大抵の映画は三幕構成で作られていますが、今作もハッキリと章が分かれています。基地にメンバーが招集されるまでが恐らく、紹介と発端の一幕目。任務完了と思ったら息詰まり、いわゆる”焚火を囲む”(※3)後に団結する89分目までが二幕目。再び救出任務に出向くところからが三幕目。こうして三幕を意識して見ると、回想が多い話運びでも大分飲み込みやすくなりました。
とはいえ二幕目は、ジョーカーのおかげで見せ場が増えてはいるんですけど、テンポが悪くなって軸を見失いがちになったりするんですが。(※4)あと予告編の受けが良過ぎて使用するポップソングが増えたらしいですが、エンドクレジットを見たら25曲ぐらい使っていたのには笑いました。
良くない評判も沢山聞く作品ですが、作劇的に破綻や矛盾も無いと思います。ハーレイは勿論、アイデアが光るエンチャントレス変身シーン等、SFやアメコミ映画においてルックが良いという事は、それだけでも合格点はまず超えていると思うので、半分は成功していると言えるかもしれません。そこからどれだけ点数を伸ばせるかというのはありますが、そこは評論家の意見を参考にするとしても、楽しめる部分は十~~~分にあると思います。
「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」
続いて「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」。これもまたポッドキャストで触れられていた作品で、しかも監督の最近の講演でも題材として挙げられていたらしいです。(※5)
これは鑑賞者から求められているものと作り手が目指すものが違う、違うというかズレ、乖離が大きかった、という事ですよね恐らく。ウィル・スミスが出演していなかった事とか、『地球にようこそ!』的なツボを刺激するものが無かったのかもしれません。しかしこの作品も三幕構成はとてもきっちりしているので、上映時間を見て、場面転換を意識するとすんなりと頭に入ってくると思います。舞台演劇みたいですね。
前作が大ヒットして人気も高いことから、確かに求めていたものと違う、いわゆる”思っていたのと違った”という現象が起こりやすい前提だと思いますが、同じことをするのではなく、前作から地続きの世界で起こることを、作り手が理論立てて積み重ねていっていることを踏まえて見ていけば、物語の進行についてはとても誠実に作っていると感じられると思っています。更に、何を求められていて、どう応えているのか、どう頑張って応えようとしているのかをイメージして見ることが出来れば、突飛な演出や予想外の展開にも冷静に対応できると思います。
だからと言って面白くなるかと言われれば別の話だし、人それぞれだとは思いますが、正しく批判するなら必要な視座だとは思います。中盤までの都合の良い展開も、上映時間や製作の事情を鑑みて、そこから納得できるかどうか、ということかもしれない。大雑把な(力技を)解決法を受け入れられるかどうか。
ジャンルの定番も抑えつつ、派手な見せ場も前作ファンも喜ばせる要素もあって、ビッグバジェットらしい楽しめる内容にはなっていますよね。構成がしっかりしているし、ジャンルものという強い構造を持った分野でもしっかり語っている。
『あなた以外、大統領継承権を持つ者が死にました。あなたが大統領です』と言われて、いきなり宣誓しなきゃいけないシーンとか大好物なのでそこは楽しめました。本に手を置いて、もう片方の手を挙げて復唱するという例のアレですよね(笑)。ビル・プルマンが戦闘機の操縦桿を握りながら『人類を代表して、、、独立記念日おめでとう』と言うのも良かった。思っていた以上に、ちゃんと観客を楽しませることを意識していたというのがわかるようになりました。それらを踏まえて、面白くないとかこれは違うという意見もちゃんと理解できますけども。
「ジオストーム」
続いてが「ジオストーム」。これもまたディザスターものです。
この作品も「~リサージェンス」と同じく派手なビッグバジェット作品で、無難に楽しめるものなのですが、これに関しては吹替もオススメだということ。
これは映画やドラマで活躍する俳優や芸能人をメインキャストに起用したパターンですが、そう聞いて身構えてしまう方もいらっしゃると思うし、それはわかります。とはいえ私は好意的に受け止めてる方だと思っていて、近年はそういう方の吹替でも、とても上手く統制されているようになってきていると感じています。今作も上手く録られていて、作品のトーンを変えずに緊張感を保っていたと思います。
ジェラルド・バトラー演じる主人公を上川隆也、その弟役のジム・スターシェスを山本耕史、弟の恋人役であるアビー・コーニッシュをブルゾンちえみが担当。ブルゾンちえみは最初は誰がやっているのか全然わからなかったし、わからない事も含めて、そういう事を気にせず見ることができた程度には、管理されていたと思います。(※6)
本業が声優の人がちゃんとメインを張った方が良い、という意見も本当に共感できます。上手く出来ているからと言って、毎回俳優さんを起用すること、してしまうことの是非について判断を下すのは、どっちの良さもわかる身としては厳しいですが、作品に合っている事と合わせる事、そして望まれているものを作れるようになっていくのが、まずは第一であってほしいですね。
こちらも大統領のセリフが印象的で、とあるシーンでの『結婚しろ』というセリフもミームになりそうでちょっと面白かったです。こういうのがある映画は良い映画。
「トゥモロー・ウォー」
三幕構成がしっかりし過ぎていてとんでもなく面白くなっている映画が、「トゥモロー・ウォー」。これ本当に凄い。
上映時間は138分ですが、大体45分毎に物語が区切られていて、幕が変わる度にジャンルも少しずつ変わっていくような、それでいてストーリーはちゃんと帰結するという、大変出来の良いアトラクション映画だと思います。これがAmazonプライムでしか見られないというのが非常に惜しい、、、!!
こういった変則的な構成の映画もあるんだなと思ったし、ジャンルものの構造が浸透しきったことを逆手に取ったような作りも凄い。
頑固ジジイとの確執、熟練の猛者たち、しぶといエイリアン等々、外せない定番が沢山あって。それに加えて阿鼻叫喚の転送シーン、その直後の『ふざけんじゃねぇよ』な着地点なんて無茶苦茶で笑えてくるし、この作品ならではと思わせる印象的なシーンが多いのも、娯楽作品として優秀だと思います。あと”徴兵された人々があまりにも一般人な風貌で頼りないが、だからこそ「ここは俺に任せて先に行け」が見た事ないレベルの格好良さになっている”件も。
ただ要素が多いとそれだけ都合の良い描写も増えてしまい、展開の多さで登場人物の扱いが少し軽くなってしまうなど、大作にありがちな”軽さ”も含んでいるんですよね。それでも「バトルシップ」のようなお祭り映画になると思うし、テレビで放送してくれないかな~~~ってずっっっと思っています。(※7)
三幕構成や目指してるものを捉えると
三幕構成や作品の構成・構造なんかは映画を見る上ではわかりきった事かもしれないし、今更ですし、何より”鑑賞者から求められているものと作り手が目指しているもの”なんて人からの影響そのままみたいな所もあるんですが。でもそのシンプルな観点から読み解くことで、今まで詰まらないと感じていた作品でも楽しむことが出来るようになった。
本当に基礎的なことですが、おかげで映画を見る上での一種のプレッシャーみたいなものを、軽減させることが出来ました。小説なんかにも応用できそうだし、何より楽しむ幅を広げることが出来たのがうれしいです。
カルチャーに対してプレッシャーみたいなものを感じている人には、そういった視点に移動して見てみるのもいいんじゃないかと、そう思います。
注釈
(読み飛ばしてもいいやつ)
※1…関係無いけど尊敬する人には”さん”付けしたくなります。でも外国人にはあまり”さん”付けしない気がするし、そもそも誰であろうと人に対して敬称を付けない事に抵抗を感じてしまうタイプだし、どちらでも良いんですけどね。
※2…ちなみに、これから挙げる作品はメジャーの対策ばかりで、基本的に面白さが担保されているようなものばかりなので、お前は真に詰まらない作品を見ていないと言われるかもしれませんが、それはもしかしたら仰る通りかもしれないし、実際に見たら詰まらないと感じるかもしれませんが、監督の言葉やほかの媒体で得た見識を踏まえると、そんな詰まらないとされる作品でも楽しめるような”視座”を得た、みたいな話なので、むしろ詰まらないとされる作品もいつかは見てみたいと思っています。
それと、メジャーの大作ばかり挙げるのは、ここ数年、キツめの作品を見られる精神状態では無いのも大きいです。鑑賞済みのものはいくらか大丈夫なんですけどね。
※3…いがみ合っていた登場人物たちが、意見の衝突から揉めたり殴り合ったりしてしまうが、一旦落ち着いて焚火を囲み、本音をぶつけて団結していくという、よくあるシーン。実際に焚火を囲むこともあれば、一緒にご飯を食べるとか、景色を眺めるとかそこは何でも良くて、ひとまずキャラクター同士を団結させる為の舞台装置。三宅監督曰くそれが”焚火を囲む”シーンとのこと。
※4…それと最終決戦も画面が暗すぎるなど、マイナスの新発見もありますが、、、最後の戦闘では幻覚を振り解く一連の流れが良かったりと、白眉となる要素も色々あるんですけどね。
※5…監督から影響を受けているので当然ではあるんですが、ポッドキャストの配信は2年前で、それを私が聞いたのは1年ほど前なので、タイミングだけは偶然です。
※6…一つ前に紹介した「~リサージェンス」も、主人公を藤原竜也が吹替していたのですが、そちらも良かったです。藤原竜也の声が特徴的なのもあって、登場人物と俳優のイメージも合致していると感じました。
※7…数珠つなぎと言うか、連想ゲームのように人との会話を経て進展していくストーリーが心地良いんですよ。主人公を演じるクリス・プラットが娘と再会した時の演技も良かったです。規模は小さくなるけど、それぞれの章で一本の映画が作れちゃいそうなぐらい。それだけ色んなものが詰め込まれていながら、エイリアンの正体や、別の目的があったのではなんていう、続編を匂わせるシーンもあって、世界観を広げられる用意周到なところも感心してしまいました。流石のハリウッド大作。
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