”ゴジラ”の中身-ミレニアムシリーズ(スマホ向け改訂版)

2024年8月13日

ゴジラ ミレニアムシリーズについて③

『ゴジラは、人間の作り出すエネルギーを憎んでるのか』

「ゴジラ2000 ミレニアム」劇中での、主人公のセリフです。ミレニアムシリーズはメッセージ性を、分かりやすくセリフで伝えるシーンが多々あります。それは今までもそうだし、基本は子供向けなので、そういう率直さがあるべきだと思います。それ自体が悪い事だとも思っていません。

しかしミレニアムシリーズにおいては、それが今までと少し違うニュアンスで使われているように感じました。反戦など、原点や過去作と同じようなセリフもありますが、どちらかというと”人間の業”について言及していると思います。行き過ぎた開発や実験、エゴ、執着、不理解をストーリーの材料として描いていた作品ばかりでした。

昭和シリーズは時代のおかげでハッキリと反戦や公害批判を描いていて、セリフでも映像でもストレートな印象。平成シリーズはストーリー性を高めた作劇で、物語でメッセージを伝えるような構造になっていました。その上で直接的なセリフや演出もあった。


ミレニアムが描く”人間の業”

ではミレニアムシリーズでは具体的にはどうだったか。「~ミレニアム」では他に、ゴジラが東海村の原発に向かうシーンがあり、『ゴジラが原発を破壊したら、どうなっちゃうの……?』という、今見ると緊張感が大いに増すものもありました。主人公が討伐に反対する理由は、ゴジラが生命の謎を解く鍵とする研究者目線で、守るでも倒すでも無いスタンスが珍しいです。この作品はなんてったってクライマックス。絶望感というより虚無感や哀しさを覚える演出で、なかなか勇気のいる終わり方でした。改めて見ると気になる部分が多く、肩を落としかけたのですが、ラストを見て、これなら良いかなと思いました。こういうラストシーンは意外と初めてかもしれないです。


「×メガギラス」では久々に、人間側に悪役が登場します。執着と権威に対する欲望が描かれていました。


「GMK」=「~大怪獣総攻撃」は全シリーズ中で最もメッセージ性の強い作品で、こちらは従来通り戦争を批判する演出が多分に含まれています。戦争も勿論”人間の業”だし、ミレニアムでも反戦反核は外さない、というスタンスなんだと思います。この作品がミレニアムシリーズの面白さを担保しているとも思いました。

劇中、謎の老人の話によると、ゴジラは太平洋戦争で散った兵士の霊魂、その集合体だと言う。人々がその英霊を忘れたから怪獣となり現代に現れたと、セリフでハッキリ説明されます。際立っていますね。主人公の父が、約50年前の初上陸の生き残りという設定。その時両親と生き別れ、二度と会うことは叶わなかったという戦争孤児に近い設定が、最も戦争と向き合っていると感じました。

エンド・クレジットがゴジラのテーマなんですが、これほどしっくり来るエンディングテーマは他に無いと思ったし、この作品だとより深く響いてきます。


「×メカゴジラ」では、意図的ではないにしろ人間がゴジラを生み、それを倒す為にゴジラの骨を使ってメカゴジラを作り、戦わせる。ゴジラの骨を、メカゴジラの材料とするだけではなく、人間の身勝手さも表現する設定としたのが巧妙ですよね。

ただこの作品の大人、全員間違ってるように見えるんですよね(笑)主人公は傷ついた少女が大事にしている物に対して『そんなの手放せ』と言うし、その父親は若干ハラスメント気味で、主人公も苦笑いだし。少女の方はめちゃ正しくて、主人公に対して『要らない命なんて無い』と反論するほどしっかりしているんです。『なんで生き方を決められなきゃいけないの?』というのもごもっともですし、これは近年の潮流にも通じていて良かったです。

主人公が諭した通り、少女が大事にしていたネムリソウを手放しますが、とても厳しい境遇なんだからそんな急にやらせることではないと思いました。主人公自身も辛い境遇で、それを踏まえての進言だろうけど、辛い境遇こそこれが正解という方法も無いと思いますし。でも子供だからこそ早めに一歩踏み出させるのが良い、ということなんでしょうか、、、。

ついでに書くと今作は進行が遅いと感じました。緊張感無く見守るだけの一幕目は少々怠い。「×メガギラス」も似た展開ですが、あれは脅威が水面下で進行しているサスペンスがあって、興味が続く構造になっていました。


人間の身勝手さというテーマは続編である「~東京SOS」でも描かれていました。『生命は、定められた時の中にこそ在るべし』と。


「~FINAL WARS」はアトラクション性に振り切ったせいか、批判的な面は『人間が恐ろしいことをして、ゴジラを怒らせた』等、やんわりした表現になっています。もっと直接的でも良いのにと思いつつ、代わりと言っていいかは分かりませんが、『自分がどんな存在かは、自分で決めることが出来る』というエンパワーメント性のあるセリフがあり、これも最近の映画に通じているなと思いました。支配や決めつけに対するアンチテーゼですよね。


ミレニアムシリーズでは様々な問題や抑圧を描いてきました。ですが、水爆や戦争の危険性・悲惨さを示すメッセージを”人間の業”に拡大したせいで、反戦や核についての批判性は薄れてしまってもいるように感じます。戦争や政治等に対して距離を取り、明言を避けるような時代の潮流を”ゴジラ”から感じるのは、ちょっと空しい気持ちにもなりました。

とはいえテーマが広がるのは良いし、懐が深くなったとも取れます。ですし、見やすいのは良い事なので、そのバランスも含めて、ミレニアムシリーズが更に好きなシリーズとなりました

これから見る方には

ゴジラシリーズは、”あの強過ぎる1作目に対してどう応えるか”という、アイディアや思想の積み重ねだと思いました。

平成シリーズはストーリーが一貫していますが、昭和シリーズはどこから見ても楽しめる”こち亀”スタイルなので、気になった怪獣やあらすじから、作品をピックアップするのも良いと思います。古い作品でも、基本は明るい作風ですし、日本の作品なのである程度は親しみやすさもありますし。勿論、平成もミレニアムもどこから見ても楽しめます。