【「大統領の陰謀」編】”大統領”に向けられた視線から読み解きたい「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」-新作に向けて”大統領映画”を鑑賞①
次作の「キャプテン・アメリカ」では大統領に就任したサディアス・ロス(ハリソン・フォード)が、重要なキャラクターとなることが既に告知されています。新キャップとなったサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)の”サム・キャップ”としての活躍にも期待したいし、アクションシーンを楽しむ映画ではありますが、せっかくなので、”大統領”が大きく関わる映画をこの機会にいくつか見てみることにしました。
ハリウッド映画における”大統領”について、
・大統領は何を目的に何を守ろうとしていたのか
・それに対し、主人公は何の為に何を守ろうとしていたのか
・作り手は大統領をどの角度から描き、どう切り取っていたか
といった視座から注目していきたいと思います。
それと、私はアメリカに住んだことも無ければアメリカ文化の専門家でも何でもないので、国家としての役割とか、実際の国民の考えや反応など、現実的な視点からの解説等は出来ません。ごめんなさい。感想です。
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「大統領の陰謀」
監督:アラン・J・パクラ
主演:ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン
劇場公開:1976年
配給:ワーナー・ブラザース映画
不正を働いたニクソン大統領を辞任へと追いやるまで真実を追い求めた、ワシントン・ポスト紙の記者たちを描いた実録劇。
大統領/主人公の目的
恥ずかしながらウォーターゲート事件についてはよく知らなかったのですが、この作品のおかげで概要を知ることが出来ました。映画=作り物なので、大まかにではありますが。ニクソン大統領が何かやらかして失脚した、とぼんやり想像していたけど、ニクソン自身による不祥事という単純な話では無かったんですね。別の記事でも書きますが、この事件以前にニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙が、ベトナム戦争についての機密文書を暴いて記事にした件があり、ニクソン大統領や政府への不信感が強まっている中で今作の事件が起きた、という経緯があり、反感を買う中で生き残ろうとした大統領という前提があります。なので事実を知っていないとこの映画の批評性が伝わりづらいかもしれませんが、ニクソンが悪人という薄ぼんやりとしたイメージさえ持っていれば、それなりに楽しめると思うし、実際私は楽しんで見れました。
ふとした疑問をきっかけに、最高権力者による不正を暴こうとしたのは、格好良く言えば正義を問うジャーナリズム精神が原動力となり、人々に知らせるのが目的だった、ということだと思います。WEBマガジン『シネモア』の竹島ルイの記事によると、今作はレッドフォードが自ら映画化権を買ってまで作ったらしく、更にダスティン・ホフマンへのオファーはバスケの試合観戦中、ナンパのように声をかけて、だったそう。作品への情熱や実際の記者達への真摯な姿勢が、演技に表れていたと感じました。
作り手が切り抜きたい”大統領”
ニクソンは主人公二人と直接関わることは無いので、キャラクターとして登場することはありません。実際の映像を使用するなど、テレビ画面の中にしか出て来ない存在です。そういう演出のおかげで大ボスっぽい雰囲気があったり、実態の掴めない本性が表れていました。関与した官僚達も名前は幾度となく出てきますが、彼らもまた殆ど映りません。悪事を暴くために奔走する記者達を主人公とした作品なので、敵を直接描かなくても伝わる”構造”ではありますが、「悪人は直接手を下さない、人やシステムを操って暗躍している」という本質も表現しているのでは、と感じました。
大統領をどう描くかではなく、それに迫る記者達をどう見せるか、という方向を目指している映画なので、主人公二人を見ていれば、おのずと反対側に居るニクソン大統領をどう描いているのかが見えてくると思います。
ちなみにスピルバーグ監督による『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』という2018年の映画がありますが、そちらも同時期・同舞台の実録劇なので、セットで鑑賞することをおすすめします。『大統領の~』ではニクソン陣営が引き起こした事件から始まりますが、それほど切羽詰まった経緯が分かるし、『ペンタゴン~』もワシントン・ポスト紙の面々が主役なので飲み込みやすい筈。構成の都合上、先に『大統領の~』を見ておくのが良いと思いました。
技術と美術
主な舞台となるオフィスの美術がとても素晴らしく、ハリウッドらしくお金も人員も大きく動いてそうな規模を感じられました。パソコンが無いオフィスというのを見たのも久しぶりです。
これは今見るからこそですが、レッドフォードが若くて新人キャラというのも新鮮に見えました。レッドフォードと言われても最近の姿を思い浮かべる世代。オフィスの棚が埋まる程、地域毎の電話帳があったり、それを手作業で調べまくるというのも時代を感じるし、作品全体にリアリティーを感じたのは、時代が変化した今これを見ているというのも要因だと思います。
全体的に雰囲気を出しているのはセミドキュメンタリータッチと呼ばれる手法らしく、長回しのカットも緊張感があって良かったですよね。終わり方の切れ味が鋭く、これは史実を知っているかどうかで感じ方も大きく変わりそうです。事の顛末を、テレビのニュース映像とタイプライターの文字だけで淡々と映していくのは、まさに現実的で、それがセミドキュメンタリーらしさなのかと思いました。だし、あっけないというか、静かに刺したな、と感じています。幕引き、こんなんか!
ダールバーグへ電話→再選委員に電話→ダールバーグから折り返し→バーンスタインから電話という電話長回しカットの緊迫感は地味ながら凄まじかったです。
“ディープスロート"の他に、証言を迷っていた女性キャラも障害物越しに映したりして、顔がよく見えないショットが多いのも印象的でした。
前述した『シネモア』のコラムによると、スプリット・ディオプター・レンズという、2つの焦点距離でピントを合わせられる特殊なレンズを使っているのも見所だそう。印象的なタイプライターの音も、実際のタイプライターの音に加えて銃声や鞭打ちの音を重ねていて、それで耳にも記憶にも残る"あの音"になっていた、というのもとても興味深い!記事いわく『「タイプライター=ジャーナリズムの力によって、腐敗した政権を打ち破る」というメッセージが込められている』。
フーバーがFBIの終身長官になった経緯を話すシーン面白かったですよね(笑)
エンドロールが2分もかからず終わったのも時代〜。
上映時間24分頃、主人公二人が担当することに。電話長回しカットで黒幕の一人が発覚する所で53分、恐らくここまでが一幕目。二幕目はそれ以降、ミッチェルと秘密資金の関係を載せた朝刊が出るまで。またはディープから、FBIも司法省も承知と知らされる1時間50分頃まで。そこから三幕目、2時間17分でエンドロール。
最後に、事の顛末を残しておきます。1974年8月6日、ニクソンは辞任拒否。8月9日、一転して辞任。75年、ホールドマン、ミッチェルらに有罪判決。38代大統領はジェラルド・フォードに。
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