【「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」編】”大統領”に向けられた視線から読み解きたい「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」-新作に向けて”大統領映画”を鑑賞④

次作の「キャプテン・アメリカ」では大統領に就任したサディアス・ロス(ハリソン・フォード)が、重要なキャラクターとなることが既に告知されています。新キャップとなったサム・ウィルソン(アンソニー・マッキー)の”サム・キャップ”としての活躍にも期待したいし、アクションシーンを楽しむ映画ではありますが、せっかくなので、”大統領”が大きく関わる映画をこの機会にいくつか見てみることにしました。

ハリウッド映画における”大統領”について、

・大統領は何を目的に何を守ろうとしていたのか

・それに対し、主人公は何の為に何を守ろうとしていたのか

・作り手は大統領をどの角度から描き、どう切り取っていたか

といった視座から注目していきたいと思います。


それと、私はアメリカに住んだことも無ければアメリカ文化の専門家でも何でもないので、国家としての役割とか、実際の国民の考えや反応など、現実的な視点からの解説等は出来ません。ごめんなさい。感想です。

「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」

監督:スティーブン・スピルバーグ

主演:メリル・ストリープ

劇場公開:2018年

配給:東宝東和

1971年のアメリカ。ベトナム戦争が泥沼化・長期化し、その詳細が記述された報告書の存在をニューヨーク・タイムズ紙が暴露した。ワシントン・ポスト紙はそれに追随し、機密文書の内容を暴こうとするが、ニューヨーク・タイムズが政府から制裁を受けたことにより、経営陣は記事の掲載を中止しようとする。ポスト紙にも政府の邪魔が迫る中、熱心な編集者と経営陣の板挟みにあう社長・ケイ(キャサリン)が下した決断は…。

大統領/主人公の目的

こちらも大統領が直接出てくるタイプの作品ではありませんが、大きく関わるのは間違いありません。都合の悪い事はひた隠しにしようとするのは、『大統領の陰謀』と同じで、主人公達が信念から正しい行いをしようとするのも同じでした。

クライマックスは、一昔前ならば、ケイの功績により経営陣の男性達が彼女を見直して、フリッツ辺りが握手を求めたりして、讃えるシーンがあってもおかしくない感じでしたが、今作は時代の潮流や価値観の変化も感じる演出となっていました。その時代にも確実に居たであろう、“働く/戦う女性達"による憧憬と尊敬の眼差しのみで彼女の功績を讃えるというシーン。眼差しだけ、セリフ無しで見せていたのは、価値観が更新された良作といった感じで良かったです。ここまでの積み重ねを見ているから、無言で見つめる人を映すだけでも感情に訴えることが出来るのだと思いました。詳しくは知らんけど、それをどう撮ってどう映すかという技術もあって、”感情を呼び起こす”シーンになっているのだと思います。

作り手が切り抜きたい”大統領”

報道記者の情熱が正義を達成する、という展開は『大統領の陰謀』と同じ。というのも、『大統領の陰謀』で描かれる事件の直前に起こった出来事こそ、今作で扱われる事件であり、同じくワシントン・ポスト紙の人々を描いている点も共通しているので、雰囲気が似ているんです。似てるというか同じ舞台ですし、役者は違いますが同一人物も登場します。実際に起こった出来事を元にした作品なので、当然ですが。ちなみに映画の構成上、『大統領の陰謀』の方を先に見ることをおすすめします。それにニクソン大統領が失墜する結末も知った上で見ると、今作での彼の慌てぶりも楽しめるので、その順番だと一層楽しめる筈です。

技術と美術

流石の"映画ウマ男"ことスティーブン・スピルバーグ。テンポの良い編集と、起伏を経て盛り上がっていく展開。事実を元にしたとは思えないほどドラマチック。いや事実がベースだからこそ熱い。けれども、事実を元にした弊害として、「凄く感動的だけど、でもこれ映画=作り物なんだよな〜実際はもっとヒリヒリしたり綺麗事だけでも無さそうだよな〜~~」という視点も生まれてしまいます。でもそんなメタ視点を経てもちゃんと面白いという凄みも感じました。『大統領の陰謀』を先に見ていたので、ラストシーンでにやりとしてしまう締め方も良いですね。

大きな情報はちゃっかり主人公のケイの耳に入ってきます。予期せぬ出来事から社長になったけど、女性が社長という偏見をなくして、会社周りの交流を欠かさず頑張っていた彼女の、そういう立場の人の重要性を感じました。

ダン(マシュー・リース)によると「アメリカが負けるという屈辱を避ける為」、「負けると分かっている戦争に若者が送られた」。トランプも好戦的なところあるけど、彼自身は扶養家族を理由に兵役逃れしておいて、本物のベテラン軍人に訓練してもらったから「実質、入軍経験と同じ」みたいなこと言ったらしいので、自己中心的な政策だし欺瞞だと感じています。

うたた寝から目覚めたケイの目に入った新聞に、「綿密なベトナム考察 マクナマラが依頼」という見出しがありました。考察という言葉はこういうタイミングに相応しい。まあ言葉なんて時代によって変わっていくもんだけど。

実際の事件を知らなくても人物関係や経緯が何となく分かる設計が、やっぱり上手い。ウマ男。

二幕目後半、ベンの家で文書を精査するシーン。あちらこちらで何か面白いことが起こってる感じが良かったです。『踊る大捜査線』の面白い部分とか、こういう所だったんじゃないかと思いました。

載せるのか、載せないのか…!選択を迫られたケイ。もうこれは中止だ、絶対そう判断するな、という流れから、彼女の息が荒くなり、顔にズームインしていき、え、まさか…?まさかの…!という一連のシーンが熱い。この映画の白眉でありピーク。ここが一番”感情を呼び起こす”し、色々と上手いんだからとにかく見て楽しんでほしい。それに尽きる映画です。更にその後も、印刷するのか、しないのか…!

1時間42分頃。自分達に続いて記事を載せた地方紙が並べられ、それを腕を組んで眺めるケイ。そんな彼女を見て、ベン(トム・ハンクス)も腕を組んで見下ろす。この構図が良かったです。

シネモアの、尾崎一男によるコラムスピルバーグの早撮りは90年代から有名な名人芸らしく、2作並行して作ったり、3作連続で撮影したりした事もあったらしいです。「40年代の映画人に憧憬があり、監督ならば一度は見習いたかった」と言っていたらしいですが、一度以上やっとる!(笑)

最後に、構成について。上映時間も2時間だし、三幕構成の区切りもきっちり40分毎。二幕目も20分経った頃に大きな展開を挟むし、教科書に載っても良さそうな構成だった。素晴らしい。

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